多様化する国際共同製作の「現在地」 - JFDB Column #15

台湾、東南アジアとの事例も急増。昨今の国際共同製作に見られる傾向とは?

コロナ禍が過ぎたこともあり、映画の国際共同製作が急増している。なぜ国際共同製作なのかという事情は企画によって様々だが、とりわけ近年の国際共同製作に見られる傾向を幾つか挙げてみたい。

一つは、既存の映画会社やテレビ局で十分な製作費を集めることが難しく、海外に共同製作者を求める場合。日本映画の興行の状況は決して悪くはないが、大半のヒット作は人気コミックや小説の映画化、あるいはTVシリーズの映画版で、オリジナル脚本というだけで出資の検討の俎上にすら上がらないという話はいまだによく耳にする。近年の日本映画でそのような状況を打破して成功した一つの例が早川千絵監督の『PLAN 75』(2022年)だが、この作品の出資集めは日本国内で難航し、フランスとフィリピンの共同製作者の出資があったからこそ完成された。近未来、高齢者の自死を政府が奨励する、というディストピアを描くオリジナル脚本の設定に日本国内の既存の映画会社やテレビ局が難色を示したことはわからないではない。結果的には『PLAN 75』は予想をはるかに上回る興行成績を上げた。もちろん、カンヌ映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)のスペシャル・メンションとして表彰されたことがヒットに寄与したことは確かだが、多くの高齢者が劇場に詰めかけたという事実は、既存の業界が想定していなかった観客層が掘り起こされたとみて間違いない。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門に選ばれ、その後も世界の映画祭で快進撃が続く空音央監督の『HAPPYEND』(2024年)も、アメリカなどの共同製作者の資金提供なしには実現しなかった映画である。これは管理社会の進んだ近未来の高校を舞台とする青春映画だが、ほとんど実績のない俳優たちをオーディションで選んでキャスティングしたことがこの映画の持つフレッシュさに大きく貢献している。この企画自体は既存の映画会社やテレビ局に持ち込んでも成立した可能性はあるが、その場合には何らかの実績があるアイドルや歌手を起用することが求められたに違いない。この他、ヴェネチア映画祭・ヴェニス・デイズ部門のオープニングを飾った五十嵐耕平監督の『SUPER HAPPY FOREVER』(2024年)、東京国際映画祭で上映された甲斐さやか監督の『徒花 -ADABANA-』(2024年)は、フランスとの共同製作によって製作されている。いずれの作品もオリジナル脚本に基づき日本で撮影され、フランス政府の助成金を得て完成した作品である。

次に見られる傾向は、台湾との共同製作の急増である。もともと台湾政府は映画製作に対して協力的であったが、それは主に自国の作品を対象とするものであった。だが、2019年に創設された政府機関TAICCA(台湾文化内容策進院)は、台湾との国際共同製作企画に積極的な支援を開始した。蔦哲一朗監督の『黒の牛』(2024年)は、徳島の山岳地帯で牛と暮らす男の生活をフィルム撮影によるモノクロ映像で描いたユニークな作品だが、ほぼ全編日本ロケにも関わらず、TAICCAからの支援が得られた理由は主演が台湾を代表する俳優リー・カンション(李康生)であることによるものだが、現在の日本の興行上の要請に応えているとはいえないこの作品が成立したことは、TAICCAなしには考えられなかった。もちろん、TAICCAはこのような芸術的な作品だけでなく、商業映画的な作品も支援している。藤井道人監督が台湾のプロデューサーから企画提案を受け、日本、台湾の双方で撮影を行った『青春18×2 君へと続く道』(2024年)はその成功例だ。この作品は台湾やベトナムなどでヒットし、興行的にも大成功を収めた。現在もこのような成功を期待して多くの企画が水面下で進行している。

もう一つの新しい傾向は、東南アジアとの共同製作が増加していることである。シンガポールのニコル・ミドリ・ウッドフォード監督が永瀬正敏、白田迪巴耶を主演に起用し。陸前高田などでロケ撮影を行った『Last Shadow at First Light』(2023年)、フィリピンのジャヌス・ヴィクトリア監督がリリー・フランキーを主演に起用した『Diamonds in the Sand』(2024年)がその代表例だ。また、インドネシアの俊英エドウィンのポスト・プロダクション中の新作『Monster Pubrik Rambut』はロケ地こそインドネシアであるが、撮影に芦澤明子、サウンドデザインに永嶌寛幸が起用された日本との共同製作作品である。この背景には、従来映画製作がそれほど盛んとは言えなかったシンガポール、インドネシアなど東南アジアの国々から才能ある若手監督たちが現れ、映画産業自体も飛躍的に成長していることがある。東南アジアの映画人たちと日本の映画人たちとのコラボレーションによって多様な作品が創り出されることを期待したい。

市山尚三(いちやま しょうぞう)
市山尚三(いちやま しょうぞう)
1963年生まれ。松竹、オフィス北野をベースに主に海外の映画作家の作品をプロデュースする。主な作品にホウ・シャオシェン監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998年)、カンヌ映画祭審査員賞を受賞したサミラ・マフマルバフ監督の『ブラックボード』(2000年)、カンヌ映画祭脚本賞を受賞したジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』(2013年)等がある。また1992年から1999年まで東京国際映画祭の作品選定を担当。2000年に映画祭「東京フィルメックス」を立ち上げ、ディレクターを務めた。2013年より東京藝術大学大学院映像研究科の客員教授。2019年、川喜多賞受賞。 2021年、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターに就任。
Diamonds in the Sand

Diamonds in the Sand (2024)

監督
ジャヌス・ヴィクトリア
キャスト
リリー・フランキー, 吉行和子, マリア・イザベル・ロペス, ソリマン・クルス, チャーリー・ディゾン
徒花 -ADABANA-

徒花 -ADABANA- (2024)

  • ドラマ
  • 劇映画
監督
甲斐さやか
キャスト
井浦新, 水原希子
SUPER HAPPY FOREVER

SUPER HAPPY FOREVER (2024)

  • ドラマ
  • 劇映画
監督
五十嵐耕平
キャスト
佐野弘樹, 宮田佳典, 山本奈衣瑠, ホアン・ヌ・クイン
HAPPYEND

HAPPYEND (2024)

  • ドラマ
  • 劇映画
監督
空音央
キャスト
栗原颯人, 日高由起刀
青春18×2 君へと続く道

青春18×2 君へと続く道 (2024)

  • ドラマ
  • ロマンス
  • 劇映画
監督
藤井道人
キャスト
シュー・グァンハン, 清原果耶, ジョセフ・チャン, 道枝駿佑, 黒木華, 松重豊, 黒木瞳
PLAN 75

PLAN 75 (2022)

  • ドラマ
  • 劇映画
監督
早川千絵
キャスト
倍賞千恵子