アニメ映画の拡大につながった「視覚的なスペクタクル」と「感銘を与えるドラマ」
2022年はアニメ映画の大ヒットが続いた特別な年だった。日本映画製作者連盟の発表によると、2022年の邦画全体で、10億円以上のヒットは26作品。100億円を超えた『ONE PIECE FILM RED』『劇場版 呪術廻戦 0』『すずめの戸締まり』を筆頭に、そのおよそ半分をアニメ映画が占める活況ぶりだ。2022年のアニメ映画の興行収入合計は過去最高を記録すると思われる。
2022年のアニメ映画の活況は、2012年以降の10年間における変化の結果としてある。2012年は、スタジオジブリ作品がないにも関わらず、アニメ映画興行収入の合計が400億円を超えた節目の年である。それまでジブリ作品がない時は200億円台だったから、大幅なアップである。
2012年を節目として始まった10年代の変化は大きく2つのポイントがある。ひとつは2012年に細田守監督が『おおかみこどもの雨と雪』、2016年に新海誠監督が『君の名は。』でそれぞれ大ヒットを飛ばし、作家性と興行性を兼ね備えたアニメーション監督として広く知られるようになったこと。2人は2000年代から徐々にファンを広げ、2010年代に入って、広範な支持を得ることになった。
もうひとつは映画『名探偵コナン』と『ONE PIECE』が大ヒットシリーズに成長したこと。映画『名探偵コナン』は2009年に興行収入35億円を超えると、そこから年を重ねるほどにヒットの規模を大きくして、ここ数年はコンスタントに100億に迫る数字を出している。『ONE PIECE』も2009年に『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』として映画企画を仕切り直すと、以降大ヒット映画の仲間入りをする。この2シリーズはともに、スペクタクルなビジュアルの強さとストレートなドラマ性の両輪で構成され、小学生から社会人まで幅広い観客を動員することに繋がっている。
この2つの動きは、観客がアニメ映画に求めているものの反映と考えられる。それは端的にいうなら「視覚的なスペクタクル」と「感銘を与えるドラマ」だ。「視覚的なスペクタクル」は洋画が強く、邦画が弱い部分だ。アニメ映画はそこを補完することで、ニーズを掘り起こしてきたのである。応援上映のような、一種のライブとしてアニメ映画を楽しむスタンスもこの延長線上にある。そして「感銘を与えるドラマ」については、「登場人物のキャラクター性」に寄っていくと映画『名探偵コナン』のような楽しみ方になり、それが「作家自身の選んだ主題」に寄っていくと細田作品、新海作品のような楽しみ方になる。この構図の中で、2010年代のアニメ映画は徐々に観客を増やしてきた。
このような大状況に加えて、コロナ禍による配信サービスの普及を背景にしたアニメ視聴者の裾野の広がりが起きたことで、2022年の状況が生まれたのだ。こうした諸状況は2023年以降、しばらくは変わらないから、あと3年ほどはアニメ映画の年間興行収入は400億円を超える水準で推移するだろう。
さらにその先の将来を占うポイントは2つ。アニメ業界が観客の臨む「視覚的なスペクタクル」を安定して制作できるだけの制作体制をちゃんと構築できるかどうか。もうひとつは細田守、新海誠に続く作家性と興行性を兼ね備えた新しい作り手が出てくるかどうか。アニメ映画の未来はそこに掛かっていると思う。