海外市場が急激に身近なものに――映画祭が大きな役割を果たす日本製アニメの変化
世界における日本製アニメの立ち位置は今、変化の只中にある。この変化をひとことでいうと、国内と海外の「地続き化」といえる。そして特に長編アニメーションの場合、この「地続き化」においては映画祭が大きな役割を果たしている。
例えば、2023年のアヌシー国際アニメーション映画祭では、さまざまな日本製アニメーション映画が上映された。具体的に挙げるとコンペティション部門に原恵一監督の『かがみの孤城』、田口智久監督の『夏へのトンネル、さよならの出口』が選ばれている。原監督はこれで4作品連続のコンペインで、過去に観客賞、審査員賞を受賞している。また今回は『夏へのトンネル、さよならの出口』がポール・グリモー賞を受賞。このほかコントルシャン部門で吉原正行監督の『駒田蒸留所へようこそ』がノミネートされている。
これとは別にイベント上映には『BLUE GIANT』(立川譲監督) 、『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』(立川譲監督)、『二つの部屋と花の庭』(山田尚子監督)、『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』(安藤裕章監督)、『北極百貨店のコンシェルジュさん』(板津匡覧監督)、『THE FIRST SLAM DUNK』(井上雄彦監督)と多彩な作品が並び、さらに「アヌシークラシックス」としてりんたろう監督の『銀河鉄道999』も上映されている。
原監督とりんたろう監督を除けば、海外での知名度はそれほど知られていない監督ばかりだが、だからこそ映画祭側の新しい才能、新しい作品への関心が見てとれるし、日本側には映画祭を通じて、今の日本の長編アニメーションを広くプロモーションしようという意思も感じられる。
数土直志は「日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか?」(星海社新書)の中で、シッチェス・カタロニア国際映画祭のディレクターから、“日本にはなぜ才能あるアニメーション監督がこんなにいるのか”と尋ねられたエピソードを引いている。そして、世界中で長編アニメーション制作が盛んになる中でも、地盤沈下することなく、日本のアニメ業界でも新しい才能が次々と表れているという指摘をしている。数土はその背景を、制作本数の多さに求めている。制作本数の多さは、制作工程上の問題を多々抱えつつも、一方で裾野の広がりを生み、作品内容の多様性や個性的な造り手が登場する土壌となっていると数土は指摘する。
この指摘の背景には、配信ビジネスの定着による海外市場の急接近という状況も存在する。連載「奇跡の急成長産業!世界が注目する日本アニメのパワー」 第1回「数字でわかる!ANIMEは世界のZ世代へのキラーコンテンツに」によると、アメリカのZ世代の44%が「流行っている日本製アニメを視聴する」と回答しているそうだ。その背景には、配信サービスの普及により、北米でもタイムラグがほとんどない状態で日本製アニメが楽しめるようになったことがある。
大雑把に見取り図を書くならば、この10年ぐらいの間に、世界的な長編アニメーション制作の活発化という潮流がある一方で、日本のアニメ産業においては海外市場が急激に身近なものとして見えてくるという変化が起きたのである。こうした大きな状況の変化が、海外の映画祭への関心の高まりに繋がっていると考えることができる。そんな変化の断片が、23年のアヌシーにおける日本製長編アニメーションのラインナップとして見えているわけだ。
ひとつの作品を国内外で分けず、一体のものとして作品をプレゼンテーションすること。そうしたプレゼンテーションによって可能性がさらに広がる作品は確実に存在する。「地続き化」は、日本の長編アニメーションの未来を開く重要な要素といえる。